生殖補助医療(ART)
タイミング指導や排卵誘発、人工授精(AIH)などの「一般不妊治療」の次の選択肢となるのが、より高度な生殖技術を用いた体外受精や顕微授精、胚移植(ET)などの「生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)」です。
人工授精を一定回数行っても妊娠しない場合や、一般不妊治療では妊娠しにくい原因がある場合、生殖補助医療(ART)という選択肢を視野に入れるかどうか検討していくことになります。体外受精や顕微授精、胚移植にはそれぞれ特色がありますので、お一人お一人に合った方法を、相談しながら選択していきます。
体外受精についてはかなり一般的になり、その方法も理解されるようになりましたが、それでもなお誤解をしている方や人工授精と混同している方も多いのが現状です。「体外受精と人工授精との違いは?」といった疑問から、治療に際してのご不明点やご不安まで、何でもご相談ください。
体外受精料金はこちらをご覧ください。
≫ 1. 保険適用価格
≫ 2. 自費価格
保険適用として生殖補助医療を受けるためには、年齢制限と回数制限の2つの条件を満たす必要があります。
| 初めての治療開始時点の女性の年齢 | 回数の上限(1子ごと) |
|---|---|
| 40歳未満 | 通算6回まで |
| 40歳以上43歳未満 | 通算3回まで |
体外受精・胚移植
体外受精(IVF)とは、排卵近くまで発育した卵子を卵巣から採取して、培養液の中で卵子と精子を受精させ、受精した卵(これを胚といいます)の状態で子宮に戻す方法で、この過程を体外受精―胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization-embryo transfer)と言います。
顕微授精
基本的に体外受精と同じように卵巣刺激や採卵などを行うのですが、体外受精との違いは、採取した卵子に細い針を用いて精子をひとつだけ注入する、という点です。この方法は、精子の数が少ない、動きが悪い、体外受精をしても受精しないなどの場合に用います。
射精精液中の精子だけでなく、精巣上体や精巣内精子を用いた顕微授精も行っています。無精子症であっても、精巣上体精子吸引法(MESA)や精巣内精子回収法(TESE)によって運動精子が得られるような場合には、顕微授精を行うことが可能です。
Piezo ICSI
Piezo ICSIは微細な振動を用いて卵細胞質の形態が変化しないように卵子の透明帯に穴をあけ、卵細胞膜を吸引することなくパルスを使用して破り、細胞質内に精子を注入します。
従来の方法では、細い針で透明帯を貫通し、卵細胞膜を吸引して穿破して細胞質内に精子を注入します。
このようなことからPiezo ICSIは卵子に与えるダメージが従来の方法より少ないため、卵子が脆弱で、これまでのICSIでは変性してしまう卵子が多い方などに向いています。
紡錘体可視化による安全な顕微授精
紡錘体は、細胞分裂時に染色体をそれぞれの細胞に分配するために形成される非常に重要な構造です。通常は極体のすぐ近くの内側にありますが、極体から離れて存在している場合もあります。通常の顕微鏡では紡錘体を観察することは困難です。紡錘体可視化装置により紡錘体を傷つけないピペットの穿刺位置の確認が可能となります。また、紡錘体の有無を観察することにより、顕微授精に適したタイミングを判断できます。

卵子活性化処理(カルシウムイオノフォア)
卵子活性化処理とは、顕微授精での受精率の低い症例に行う補助的技術です。
顕微授精をしても受精してこない受精障害の原因の一つに卵子活性化障害が考えられます。精子が卵子の中に入り、正常な受精反応が起こる際、精子が引き金となって卵子内部のカルシウムイオンが上昇すること(卵子活性化)が知られています。
顕微授精により精子が注入されても精子に何らかの原因がある場合、卵子内部のカルシウムイオン濃度が上昇しません。その結果、卵子活性化が機能せず、受精しないと考えられます。
当院では、卵子活性化処理にカルシウムイオノフォアを使用しています。
カルシウムイオノフォアは卵子の細胞膜のカルシウムイオンの透過性を向上させ、卵子内のカルシウムイオン濃度を上昇させます。これにより細胞周期が正常に進行し、受精卵の形成が促進されます。
胚移植(ET:embryo transfer)
正常に発育した胚を、医師が細いチューブを用いて子宮内に移植することを胚移植(ET)と言います。胚移植には、採卵後2、3日目に移植する「初期胚移植(Day2、3ET)」と5、6日目に行う「胚盤胞移植(BT:blastocyst transfer)」があります。
BTは、胚を胚盤胞と呼ばれる段階まで育てた後に移植する方法で、良好な胚を選別するのに適していますが、胚盤胞にならなかった場合には移植することができません。日本産科婦人科学会や日本生殖医学会では、胚移植の個数は原則的に1個としています。ただし、年齢が高い場合や前回の胚移植で妊娠されなかった場合などには2個胚移植も許容されています。
採卵周期に胚移植を実施する新鮮胚移植もありますが、近年日本では凍結融解胚移植が主流となっています。
高濃度ヒアルロン酸含有培養液
高濃度ヒアルロン酸含有培養液は胚移植用の培養液で、ヒアルロン酸には胚の保護と子宮内膜への着床を促す効果があります。
反復着床不全では、高濃度ヒアルロン酸含有培養液を使用することで妊娠率が向上するといった報告があります。
ヒアルロン酸はもともと子宮腔内、卵管、卵胞内にも存在しており、人体への安全性も確認されています。
保険周期の場合には使用制限があり、初回の胚移植では原則使用できません。
アシステッドハッチング(AHA)
出(ハッチングという)して子宮内膜に着床します。しかし透明帯は胚の体外培養や凍結融解、加齢などで硬化するといわれており、透明帯の硬化はハッチング障害の原因となることがあります。
アシステッドハッチングとは、透明帯から胚が脱出(ハッチング)するのを補助(アシスト)するために透明帯の一部を薄くしたり、切開したりする技術です。
当院ではレーザーを用いたアシステッドハッチングを行っています。現在のアシステッドハッチングの主要な方法で、安全かつ簡便に行うことができるため、多くの施設で採用されています。赤外線レーザーを透明帯に照射し、透明帯の一部を薄くしたり、穴を開けてハッチングの手助けをしてあげます。

